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蝉の話


 巷で話題のベストセラー本を読み終わった。アドラー心理学関連で有名になった『嫌われる勇気』である。
 自己啓発本は昔から苦手意識があった。“こうすべき”だの“ああしろ”だのと書かれててその瞬間は「なるほど」、「へえ」と感心しつつ、ああ面倒だな、明日になったらどうだ、何か言ってたなしらんけど、でそのうち忘れて記憶から消えている事が多い。だいたい内容が薄いから余韻が残る事も少ない。だがこの本は思いのほか楽しむことができた。読む前はまた胡散臭い自己啓発本かね、まあベストセラーなら読んでみるか、と斜めに構えていた。良い意味で裏切られた、頭の遥か上を越えていった。予想外の出来事だった。 
 内容は、幸福とは何か、人間関係はどうあるべきかとかそういった哲学によくありがちな問いをテーマに“青年”と“哲人”の対話形式でアドラーの心理学を基に導かれてゆく。

青年『論破してやる、ええい』
哲人『うむ、ほれ』
青年『ウワー……』『…なんやワレ許さんで、これで論破や』
哲人『ほう…、ほれほれ』
青年『アー…※▲◇×●▽※□…』

 対話の流れはこの感じが延々と続く。“青年”が蝉のように仰々しく喚きながら飛びかかり、それを“哲人”が華麗に受け流して煩い蝉をサッと投げ返す。延々と続く長いその対話の道を、“哲人”と“青年”の跡を目印にしてフラフラと歩み進めてゆくことになるが、途中で読者によっては引き返すかはいざ知らん。ただ哲学系統の本は鉄球を飲み込むような難解そうな感覚でいたので敬遠してたけど、なるほどこれはベストセラーになるわけだ、中身が水のように飲みやすいし、目から鱗の考え方であり、読み物としてなんやこれ面白いやんけ、こういうことになった。小説だとつまらぬ描写に途中で寝てしまいがちな近頃の私であったが、読書の面白さを思い出させてくれた。そういう意味で夏休みも近いし、蝉も鳴いてるし、関係ないけど勝手に読書感想文でも書くか、こうなった次第である。